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りっかのブログ

イケ奥の永光さんへの愛を叫ぶだけのブログです笑 ネタバレあり愚痴多め!注意です

「リストラ・プロポーズ」

現パロです。永光課長と、女子社員の影ちゃん。

影ちゃんがキャラ崩壊というか、私が好きなおバカな性格になってます(笑)

ツイではぷらいべったーの方に上げて公開しました✨

仕事辞めたさすぎて、こんなものを書いてしまった。

 

 

リストラ・プロポーズ

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「リストラされたら私、住む所も食べるお金も無いんだからねーー!化けて出てやるからっ!」

 

「解雇」という絶望的なタイトルの辞令書を手の内に握りつぶして、


私は会社の屋上で、越えてはいけない手すりを乗り越えた。

 

36階建てビルなんて今時珍しくも何ともないと思っていたけど、こうして改めて見下ろすと、竦む足も無いほど地面が遠い。

 

豆粒のように車が行き来しているのが足元遥か遠くに見える。

 

今まで過ごしてきた他愛もない日々や、
親の顔、実家の犬、
就職活動で遠く離れてしまった親友、
会社で密かに憧れだった課長の優しい笑顔。
順番に浮かんでは消える。

 

(これが走馬灯のように駆けめぐる想い出…ってやつかな。走馬灯って、何だか知らないけど。)

 

今更ながら、何の取り柄もなく過ごしてきた人生を悔やむ。

この都心に建つ一流企業に就職できたのは、間違いなく私の人生で一番の奇跡だった。

ああでももう、それも終わり。どうでもいい。
私の目の前に続く人生は真っ暗。

 

リクルートスーツの次に買った高い買い物。
私が履くと偽物っぽいと同僚にからかわれたブランド靴の踵を綺麗に揃えると、
その上にベタに「遺書」と書かれた封書を乗せる。

 

胸の前で手を組み、最後の「この世」を目に焼き付けようと思うけれど、視界が滲んでよく見えない。
瞬きをしてみる。涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

 

あれ、おかしいな、憧れだった永光課長が見える。
走馬灯のように何とか…にしては、やけにリアル。

ああしかも、こんな死ぬ間際に見ても、やっぱり彼はかっこいい。

長い睫毛に縁取られた優しい目元に、形の良いくちびる。

つい心を許してしまいそうな微笑みは、女子社員を湧かせるのに十分過ぎる威力。

そのうえ仕事も出来て、社長からの信頼も厚くて、なのに時々見せる子供のような悪戯めいた顔がまた魅力的で。

私が新任社員の時には、お茶を零したミスをかばって自分の所為のようにしてくれたんだっけ。
今思うと、あの時彼を好きになったんだよね…

残念、あの頬にかかるサラサラの栗色の髪に、一度で良いから触れたかっ…


「受け取ってくれますか?」

手を握られた感触で、はっと我にかえる。

 

「ほ…本物っ…永光課長っっ」
思わず間抜けな声を出して目を瞬く。

 

それを見て困ったように笑った私の想い人は、私の左手を取ると、
薬指に光る何かをはめた。

「死ぬくらいなら、貴女を私にください」

 

それが私が初めて見た彼の裏の顔ー

 

あろうことか、人事課長という職権を乱用して私を「口説いた」、彼の素顔だった。

 

……

 

 

「辞令というのは、社長から直々に頂くものなのですよ?」

 

スーツを掛けたハンガーをクローゼットの同じ場所へ戻し、品の良い深藍色のネクタイを緩めながら、私の「夫」の話しぶりはちっとも悪びれない。

 

「そんなこと、知りません…封も形式も本物だったし、本当にびっくりしたんですから…」

 

あの時のことを思い出し、顔が熱くなるのを感じながら私は玉ねぎの皮を剥く。

 

「けれど、こうして本当に寿退社して私の妻となったのですから…
嘘から出た誠にしては、うまくいったと思いませんか?」

 

永光課長ーー改め、永光さんーーは、どこか満足気な様子でそう言い、

「きゃっ…!」

いつの間にか後ろに立っていた彼は、私の髪をかきあげてうなじにキスをした。

 

「いいものですね、私を家で待っていてくれる新妻の後ろ姿は」

真っ赤になる私を、くすくす笑いながら抱きすくめる。

 

「あ…もうっ、これじゃご飯作れません…!」

シャツの外された第二ボタンまで、はだけた素肌が背中に触れて、ドキリとする。

 

「何を言っているのですか。食事よりもっとずっと重要なことです」

気づいたら玉ねぎは私の手からさっさと取り上げられ、
くるりと肩を回された私は、永光さんの真剣な目に捉えられる。

 

「貴女を自殺にまで追い詰めた罪を、どうか愛することで私に償わせてください」

 

「…そんなこと言って、結婚してから毎日、突然のタイミングでベッドに連れて行かれる方の身にもなって下さい」

 

「貴女が喜ぶからですよ?」

「よ、喜ぶって…」

「ほら」

ひょいと抱き上げられて、いとも簡単に唇を奪われる。

 

「んっ…」

優しく、甘やかすように唇を弄ばれ、

「んんっ…っん…っ…!」

反論しようにも、どんどんキスが深まっていって声が出せない。

 

(ず、ずるい…ずるいずるいっ)

心の中で抗議する声も虚しく、永光さんには届かないーーはずなのに、
キスの合間、彼が可笑しそうにふっと笑う気配がする。

 

(こ、こんな人だって、もっと早く知っていたら…)

最初は健気に抵抗していた私の両手も、だんだん力を失っていき、

案の定、今日もまたこの誘惑の前に屈する。

 

(もっと早く知っていたら…もっと早く恋に落ちてた。間違いなく)

抵抗する様子が無くなった私を察して、永光さんの唇はやっと私を解放してくれる。

 

「…あの、今日は、私がちゃんとご飯を作りますから」

意地悪で狡猾な夫の手技の前には成す術もなく降伏させられたとしても、
せめて妻としての責任くらいは果たしたい。

 

恥ずかしさに目を逸らしながら告げると、彼はひとつ大きく瞬きをした後、意味深に目を細めた。

 

「最後まで起きていられたら、ですけどね」

 

 


……

 

 

 

すやすやと眠る妻の頬に優しくキスをして、そっと布団をかける。

 

静かに寝室を出ると、永光はキッチンに立った。

「オムライスですか…ふふ」


天板の上に用意された材料を眺めて、思わず頬が緩んだ。


包丁を握る指先は器用な動きで、桐のまな板にトントンとリズミカルな音を打つ。

 

火にかけたフライパンにバターを引くと、それが熱を獲得するまでの間、ボウルへ玉子を次々に割り入れてゆく。

 

熱くなったフライパンにザッと玉ねぎを掻き入れると、幸せそうな香りがキッチンに拡がった。

 

(食後は、彼女の好きなコーヒーを…)

 

ラッセルボブズのケトルにスイッチを入れると、ほどなくしてコポコポとお湯が沸く音が聞こえてくる。

 

(この音を聞くと、思い出しますね…)

 

昔新任社員だった妻が、お茶を零した時の事を思い出して、永光は顔を綻ばせた。

 


……

 


重役の集まる会議の中、カタンと聞こえた音に嫌な予感が的中した。

綺麗に円卓の上を横切ったお茶は、運悪く社長の書類の縁を濡らして止まった。

 

よくここまで美しく「不運」を表現出来たものだとーー
一瞬、妙に感心してしまう。

 

部屋中の視線を一斉に注がれた時の彼女は、顔面蒼白。
完全に「思考停止」のポーズだ。

(やれやれ。こんなものは、どうにでも誤魔化せるというのに…)

 

「すみません、私の袖が当たってしまったようですね」

自白する犯罪者のごとく両手を上げて、彼女に小さく目配せを送った。

 

「あ…その」
真っ赤になって狼狽えている隙に、

「申し訳ありませんが、片付けて頂けますか?」
丁重にお願いすると、

「私は社長に、新しい資料を用意して参ります」

その場を去った。

 

 

 

「ありがとうございましたっ」

 

深々と礼をする彼女に、微笑みを作る。

 

「気にすることはありませんよ。貴女の為ではなく、あれは人事課にとって重要な会議でしたから…それだけです」

優しく突き放すように告げる。

 

「す、すみません。今度から、充分に気をつけます…」

しゅんとして去っていくのかと思えば、彼女は手に持っていた紙袋を私に突き出し、

 

「これ、ご迷惑をおかけしたお詫びと、私の個人的なお礼です。
お仕事でされた対応でも、私が勝手に嬉しかったので、そのお礼です」

 

受け取った袋の中身を確認しようと視線を移した一瞬の隙に、もう彼女の姿は消えていた。

 

(これは…)

袋の中身は、我社の取り扱うスイーツ商品数点に、他社とのコラボ企画で販売中のドリンク。

(真面目すぎでしょう…)

 

会議の時に、真っ青になって動きを止めた彼女の顔を思い出し、沸々と笑いが込み上げる。

 

「ふ、ふふ…っ」

思いがけず、声を出して笑ってしまう。

 

勤務中にこんな風に笑うのは初めてだった。
いや、女性に対してこんな風に笑うこと自体が。

 

(私が勝手に嬉しかったお礼、ですか)

 

手にした紙袋から一つ、出来るだけ甘さの少なそうなビターチョコを選び、封を開ける。

ひとくち口に含むと、ほろ苦い大人の甘さがゆっくりと口内で溶けていった。

 

(我社の商品も、捨てたものではありませんね?)

チョコの入っていた包装紙を、指先でくるくると弄ぶ。

 

「ich bin verliebt in dich.」
ドイツ語で、「あなたに恋をしています」。

社のブランドイメージを表わす蝶と牡丹花のあしらわれたパッケージには、金色のフラクトゥールでそう書かれていた。

 

 

……

 

 


(人事課長としては、良くない退職勧奨だったのでしょうね…)

 

パチン、とケトルが仕事終了の声をあげる。

食事を食べ終わる頃には、コーヒーを淹れるのに最適な温度になっているだろう。

 

(私が愛らしい妻を手に入れたことで、あの会社は真面目で優秀な人材を失ったのかもしれないーー

ただしこれは職権乱用などではなく、ただの男の独占欲という、世間にもありふれたひとつの愛のかたちなのですから)


食卓には、たった今作り終えた二人分のオムライスとサラダ、スープが食欲を唆る匂いをたてている。

 

グラスにワインを注ぐ音に、
ううん、と寝室で微かに身じろぎする妻の声が聞こえた。

 

(そろそろ愛する妻はお目覚めですね。予想通りの時間です)

時計をちらりと見て、見立てた予定が滞りなく進んだことに満足する。

 

寝室へ静かに足を運びながら、

(そう言えば、まだ言っていなかったですね)

 

あの時いなくなってしまった彼女に、「私が勝手に嬉しかったお礼」のお礼を、
食事をしながら告げようと思い立つ。

 

(私がこんなことを考える日がくるなんて、思ってもみなかったことですが…)

あの日から自分がどんな目で彼女を見てきたかも、
この愛しい妻が望むなら、吐露してみても構わないとさえ思う。

 

しかし、その前にー

 

(これから浴びせられる『なんで起こしてくれなかったんですか』の宥め方を、
私は考えなくてはなりませんね?)

 

 

まだ寝ぼけて眉を寄せる妻に、
お伽話の王子様のように清廉な深い愛を込めて、ーー
『目覚めのキス』をした。